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第240話リバーシブルしませんか2
(円語り)
断っておくが、思いつきで口にした訳ではない。
渉さんと付き合った時から願望としてあった。
渉さんには、なごみさんという元彼がいる。2人は3ヶ月ほどのお付き合いの後、友達に戻ったらしい。そんな関係が成り立つのかはさて置き、彼らに対してあまりいい感情は持っていなかった。元恋人ほどやっかいなものはないと知っていたからだ。
渉さんはなごみさんを猫っ可愛がりする。下心のある弟みたいに甘やかす。なごみさんは、大野君という彼氏がいるのに、見ていて気持ちのいいものではなかった。とにかく仲が良いのだ。
そこで耳にしたのが『渉さんがタチ』という衝撃の事実だった。俺たちの関係が始まって以来、渉さんは始終ネコで、身体の相性はいい方だと思っていた。
渉さんは完璧な人だ。全てにおいて抜かりがない。そんな渉さんがなごみさんに対してタチをやっていたことに激しく嫉妬した。俺も渉さんに甘やかされながら突かれるセックスがしたい。
俺の知らない渉さんが見てみたかった。
「円君、本気?」
「なごみさんとはタチだったんでしょ?俺も渉さんに…………抱かれてみたい」
「う……んと……えーと……」
渉さんの目が泳いだ。珍しく動揺しているようだ。
「だめ?」
「駄目……じゃないけど、なんで急に?それに円君ってネコやったことあったっけ……」
「急にじゃない。前からずっと思ってた。なごみさんなら抱けたってことが、気になってて。俺じゃ勃たない?大昔に少しだけ下はやったことあるから、経験は無い訳じゃない……」
くいくいっと無意識に渉さんの部屋着の裾を引っ張っていたことに気付き、慌てて手を離す。
甘えるなんて柄でもなかったかな。
いつもやりたいようにさせてもらってるくせに、不躾なお願いだったかもしれない。
「そっか……困った」
本当に困った顔をされたので、俺は泣きそうになる。拒否されたら立ち直れないため、早々に畳み掛けることを決めていた。
「困ってるなら、もういい。変なお願いしてごめん」
「困るというか何というか、僕だってそういう欲は前からあったよ。1度抑えて封印してきたものを出すっていうのには覚悟がいる」
「覚悟……?俺、渉さんにならいつでも抱かれたいよ?」
渉さんが意を決したように真面目な表情になった。そして、ふんわりと笑う。
ヤバい。下半身へ直にクる笑顔だ。
「円君が望むなら、僕が上になるよ」
「是非お、お、お願いします」
「最近、なんか上の空だったのは、この所為かな」
「ええ……まあ……うん」
「可愛いね。早く言ってくれればいいのに」
「そんなの言える訳がない」
「物好きさんの勇気は讃えよう。後悔しても知らないからね」
「後悔なんかしない。絶対」
そして、念願の『リバ』が始まった。
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