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第245話夏の宵に君へ伝える2
(なごみ語り)
沖縄の空は、抜けるよう澄んでいて、雲ひとつ無い青色だった。
東京とは比べられないくらい暑い。蒸し暑いというか、刺すような痛さが肌に伝わってくる。
空港を出たところで、日に焼けた青年に声を掛けられる。現地の人はかりゆしウェアという涼しそうなシャツを着ているが、青年は分厚目の白いポロシャツに、ベージュのチノパンを履いており、随分と暑そうであった。
「お疲れ様です。白勢社長、お待ちしておりました。そちらは、和水さん……ですよね」
「ああ、お疲れ」
社長の横で挨拶した僕へ青年は目を細めた。
「この方が、あの……秘書の方……」
「和水洋一と申します」
「お噂はかねがね伺ってます。御迷惑をお掛けすると思いますが、よろしくお願いします。ご挨拶が遅れました、玉田哲也と申します」
仰々しい挨拶に何か引っかかるものがある。社長は素知らぬ顔で、すたすたと歩いていった。
知らない間に変なことに巻き込まれた感が拭いきれないも、質問する暇がない。
そのまま空港から社用車に乗り込んだ。
「支店はあれからどうなった……?」
「あれから大分と落ち着きました。相変わらず仕事は山積みですが」
『あれから』が何なのか、聞いたら最後の予感がするため、触れずにそのままにしておく。
社長と玉田さんの会話は、意味を含みながら続いていた。何かが起こった沖縄支店では、営業がままならないも、細々と続けているらしい。事務所内は壊滅的に荒れているようだ。
流れる景色は、リゾート地特有の浮世絵離れした建物が見えてきた。
仕事でなければどんなに良かったか。ぼんやりと隼人くんの顔を思い浮かべる。
「あのさ、和水君。聞いていたと思うけど、これから1週間かけて沖縄支店の建て直しをして欲しいんだ」
唐突に、社長がとんでもないことを口にした。
「……今なんて言いました?」
「言った通りだよ。事情は玉田君から聞くといい。君も遊びに来た訳では無いことぐらい分かっているだろう」
「…………」
完璧に騙された。視察のお供ではないことは、察していたが、全く予想が外れた。
「和水君は、昔調達部にいたでしょ。本社と連携して、そっちを見つつ、事務の云々を指導してやって。事務所を見たら、君ならやることが分かると思うよ」
「和水さん、どうぞよろしくお願いします。あなたのような存在を待ち望んでました」
「……………………」
専門部隊を大々的に派遣しないのは、理由があるようだ。真実を口にしない社長に苛立ちが募った。
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