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第246話夏の宵に君へ伝える3

(なごみ語り) 業務外のことをやれという社長に、呆れて言葉が出なかった。 しかも、僕にできることなのか、甚だ疑問である。支店を建て直すなんて1人で出来ることではないだろう。僕の能力はたかが知れている。 社長の悪いところは見切り発車ではなく、それを全て分かっていた上で僕へ命令しているところだ。全てを見越した先に彼の目的があり、人選も抜かりない。 おそらく、かなりの人数を派遣しようとして、古株の専務達に反対されたところだろうか。 要するに、出張の名目通り支店を視察をすればいいのである。僕が沖縄支店の現状を把握した後、報告書を作成すればヨシというところだ。 こんな面倒くさいことをやるために、わざわざ沖縄へまで連れてこられたらしい。 『和水君ならできる』と無責任な持ち上げをして、僕と玉田さんを事務所へ残し、白勢社長は別件で出かけて行った。 「あ、あの……」 「なごみさん、よろしくお願いします。収集がつかなくて困り果てていました」 「事情から伺いましょうか」 「中へどうぞ」 沖縄支店は、ビルの1階をテナントとして借りていた。ショールームは東京に比べて半分である。 こじんまりとした事務所へ足を入れる。ファイルや書類が拡散し、足の踏み場が無かった。まるで泥棒に入られたようにぐちゃぐちゃだ。 「何これ」 「1週間前に、事件が起こりました……」 玉田さんが身振り手振りで、ドラマのような説明を始めた。 簡潔に説明すると、支店長が事務所の女の子達に手を出して修羅場になった、である。 支店長(39)は、単身赴任で沖縄支店に勤めていた。妻子は、買ったばかりのマイホームに別々で暮らしている。元々、略奪愛からの出来ちゃった婚である支店長は、単身赴任で再び自由を手に入れ、先ずは既婚のAさんと深い仲になった。 それでも飽き足らず、数ヶ月で若手の独身Bさんを手中に収める。 Aさんは既婚のため時間の自由がきかない。だから、Bさんとのやり繰りは容易だった。暫くは2人との秘密の恋に勤しんでいたが、Cさんの登場で全てが崩れてしまう。 出来心で新人Cさんと一夜を共にしてしまったのだ。だが、前例の2人のように支店長は、Cさんを都合よく扱うことに失敗する。 地元出身で、友達も多く素直なCさんは純粋に支店長を好きになった。だが、自分が1番でないことを知り酷く憤慨する。 人数の少ない支店で、1部を除いた女子全てが支店長の愛人となる異様な状態だった。 いつ全てが露呈するか分からない事態を、待っていたかのように事件は起きる。

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