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第247話夏の宵に君へ伝える4

(なごみ語り) 玉田さんが、恐ろしかったと震えながら話してくれた。 「外回りから帰ってきたら、事務所内の空気が張り詰めたを通り越して、固いものに変わっていました。正に一触即発状態で、俺が帰ってきたと同時に女のバトルが始まりました」 『今でも思い出すだけで怖い』と、玉田さんは震えながら話してくれる。 しかしながら、社長にも話したであろう事の顛末は壮絶だった。揉み合いと怒鳴り合い、罵りと同時に物を投げ始め、乱闘騒ぎになり、周りの職員が止めても収まらなかった。 最終的には警察まで呼んだらしい。 「で、この状態です。1週間以上、手が付けられてません。正確には、いる人間でやらなければならない業務を必死で回しているだけで、片付けや事務処理まで追いつきませんでした。沖縄支店は事実上、機能していません」 「当事者達はどうなったの……?」 「支店長は雲隠れしました。社宅へ帰っている形跡はありません。女の子達も同様で、連絡が取れません。既婚のAさんだけ、旦那さんを通して退職の意向を示してきました」 「無責任な大人達だね。呆れるを通り越して、言葉が出ない」 人は、想像を絶することが起こると、事実を事実として受け止めるまでに時間がかかる。それに対しての意見や感想は、後から湧いてくるもので、沖縄支店に関しては、驚きしか無かった。 実際にドラマのようなことが起こりうるのか、信じ難い。 「俺は昔、白勢社長に個人的にお世話になったことがあるんで、どうしようにもならなくて、相談しました。支店長が居ないと、主任である俺が責任者になるものですから」 「玉田さんは、何とも思ってないんですか?」 玉田さんは第三者の立場を貫いているためか、終始淡々としている。不思議に思って質問すると、彼は更に笑った。 不自然な笑い方に、僕はちょっと引いた。玉田さんも相当疲れているらしい。 「そんなの、めちゃくちゃ迷惑で、俺だって泣きたいですけど、どうしようもない。まだまだ、この会社で働きたいから、何とか立て直したいんです」 全く機能していない沖縄支店は、玉田さんと、年配の事務職の女性、あと2人の営業マンでなんとか回っている。 「とにかく……片付けましょう。玉田さんは仕事に戻ってください。事務職の方が、午後からいらっしゃるなら、分からないことはその方を待って進めます。仕事分はお役に立てるよう、尽力します」 「あ、ありがとうございます」 午後から納品に立ち会わなければならない玉田さんは、お昼すぎに出掛けていった。 誰もいなくなった事務所で、静かに片付けを始める。この状況で、何もしないという選択はなかった。社長のいいように使われるのも気に障るが、玉田さん達を放っておけない。 僕の性格を分かった上での人選とは、社長もしてやったりだろう。

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