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第250話夏の宵に君へ伝える7
(なごみ語り)
帰る日が決まった。
それまで比嘉さんと共に、業務をこなす。小さな支店なので、事務が2人も入ればあっという間に片付いていく。
たった5日だけど、沖縄支店の人はみんないい人なのが良く分かった。アットホームな雰囲気と独特な時間の流れに居心地の良さを感じた。
帰る前日、近くの居酒屋でささやかな飲み会を開いてもらう。
比嘉さんと、数人の営業マン、玉田さんと僕で机を囲み、地元のお酒と料理で楽しい時間を過ごす予定だった。そう、『和水さんお疲れ様です。帰るなんて寂しいです』と言われたり、泣きそうな比嘉さんと、うるうるする予定だったのだ。沖縄での業務はイレギュラーだったけど、楽しかったと思わせてもらいたかったのに、心地よい沖縄イントネーションを耳に残しておきたかったのに……現実はうまくいかなかった。
「おい、玉田。お前、支店長の行き先を知っているんじゃないか?先週お前らが一緒にいるところを見たんだ」
最初の1杯を飲んでいる時だった。ゴーヤーチャンプルーを比嘉さんが小皿に盛ったところで、営業マンの島袋さんが爆弾を落とし、場は騒然となった。
「ええっ、島袋さん、それは本当なの?」
「夜中だったし、よく見えなかったけど、あれは多分支店長だと思う」
「ってか何で捕まえなかったの!!」
「まさかあんな所にいるとは思わなかったんだ。よく考えたら、玉田と支店長だったなと」
と、島袋さんは近所の町名を告げる。
『誰も知らない』ことになっていた支店長の行き先が、実は近くだったことに驚く。
一応、社長の指示で事務所内の社員へ個人面談を行った。玉田さんは完全に部外者の立ち位置だったが、今思えば支店長を擁護するような事を言っていた気がする。
事実は一体どこにあるのか。
「玉田さん、島袋さんの言ってることは本当ですか?」
「玉田さん…………?」
「……………………」
「黙ってないで、何とか言ったら?」
「お前は支店長とグルだったのかよ?」
黙り込む玉田さんへ皆の質問が集中する。
彼は、生ビールのグラスを持ったまま俯いて静止していた。
「…………すみ、ません……」
どれくらい経っただろうか。
観念したように、細々とした声で玉田さんは話し始めた。ずっと前から罪の意識はあったのだろう、彼からは躊躇いの感情は無かった。
居酒屋の喧騒が遠のいていく。
か細い声に、唸るクーラさえも鬱陶しく感じた。
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