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第252話夏の宵に君へ伝える9
(大野語り)
なごみさんが目的不明の出張へ連れていかれて1週間弱。
沖縄という南国が、愛しの恋人を拉致した憎い場所になりつつある。沖縄に罪は無く、勝手になごみさんを連行した白勢社長が悪いのだ。
悪さで言えば、元沖縄支店長が1番である。優秀すぎるなごみさんも悪いのではなかろうか。いやいや、なごみさんは罪な存在ではあるが、何も悪くない。
なごみさんは、朝から晩まで扱き使われているようで、少ししか電話ができない。もうちょっとで帰るからと疲れた回答が返ってくるだけだった。
どうせご飯もろくに食べずに、沖縄支店の為に身を粉にして働いているのだろう。
実は、大野家でちょっとした事件が発生していた。1番になごみさんへ相談したかったので、色んな意味で非常に俺はやきもきしていた。
そんな折、なごみさんの帰ってくる日が決まる。帰ってきたら何しようって、わくわくしながら残業していると営業部のフロアに東室長が現れた。営業部に似つかわしくない風貌は、更に異彩を放ち、冷徹ぶりが際立っている。
「大野、ちょっと来い」
くいと打ち合わせスペースに手招きされる。行きたくないけど、行くしかない。なごみさんの上司である東室長には借りがあった。
「…………なんすか、突然」
長い足を組み、東室長は不敵な笑いを浮かべる。
「和水が明日帰ってくるのは、知ってるよな」
「知ってますけど」
「実は、さっき和水から連絡が来て、急遽俺が朝一番にあっちへ行くことになった」
「はあ……」
最初からなごみさんに任せるような案件ではない。無理やり働かせておいて、手に負えなくなったら室長が行くとは、随分傲慢である。
「社長も行く予定だったが、至急の用事ができてしまった。飛行機のチケットをキャンセルしようか悩んでるんだよ」
「乗らないならキャンセルしないと、勿体ないじゃないですか」
「誰か乗れる人を知らないか?」
ん……?
なごみさんの居る沖縄へ行けるチケットが、室長の元ある。乗る予定の人はいない。明日は土曜日で、仕事は休みである。
繰り返そう。明日は休みだから、俺がなごみさんの元へ行くことが可能である。いや、行ける。
「お、俺が行きますっ!!」
大声とともに思わず立ち上がっていた。
「俺が明日、なごみさんを迎えに沖縄へ行きます
!!」
「なら良かった」
東室長は携帯を取り出して何かを送った。俺の携帯がポケットで震える。
「ありがとうございますっ……」
「礼は社長に言え。必ず月曜日に和水を出社させること。これを守らなければ、どうなるか分かってるよな」
「分かってます。ちゃんと出社させます!!」
「じゃあ、また明日」
立ち去る際もスマートに、何事も無かったかの如く、室長は天上階へ戻って行った。
後で気付いた事なのだが、航空券は購入する際に搭乗者を申告しなければならない。途中で変更も効かない。航空券には俺の名前で購入されていた。下手な言い回しはせずに、最初から素直に言えばいいのに、回りくどいやり方へ少し腹が立つも、和水さんに会える喜びで全てが吹っ飛んだ。
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