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第253話夏の宵に君へ伝える10

(なごみ語り) 那覇空港の大きな水槽の前で、大きな男が2人、突っ立っている。 昨晩、待ち合わせの時間と場所を指定するメールが東室長から来た。朝になり、泊まっていたホテルをチェックアウトして那覇空港へ行ってみたところ、東室長の隣に隼人君が居たのである。 「これからは俺が引き継ぐ。支店長は同期なんだ。捕まえて、退職届を一応書かせる。受理されるか分からないが、自業自得だろう」 「室長にお任せします。もうこんな出張はこりごりです。疲れました……」 今までの経緯は全て細かく報告済みである。やっと終わった業務に、僕はほっと胸を撫で下ろした。長く続いた緊張状態から、ようやく開放された。 「…………で、なんで、隼人君がここに……?」 「なんでって言われても……」 「社長からのご褒美だ。和水には感謝していた。ありがたく受け取れ。お疲れ様」 ぐい、と隼人君の背中を押す。 なんせ、向こうに戻らないと会えないと思っていた人が、ワープしてきたの如く目の前に存在するのだ。戸惑ってしまう。 「東さん、本当にいいんすか?」 「何度も聞くな。なんならすぐ帰ってもらっても構わない」 「いやいやいやいやいや、受け取ります。ありがたーく、受け取ります。あざますっ」 室長は、月曜日に絶対出社しろと念押しして、颯爽と去っていった。 つまり、延泊は許されないが、今日明日の2日間は自由であるということだ。 「……なごみさんに何がなんでも出社して欲しいんすね。切実でしたよ。社長秘書の不在は大変だったみたいです」 「四六時中公私共に社長の相手をしてたら参るんじゃないかな。それはそうと、来るなら言ってくれれば良かったのに」 彼に手を伸ばし、掌で少しだけ触れてみる。幻ではないらしい。本物の隼人君だ。 「……会いたかった」 会いたかった自分の気持ちを味わうように、言葉に出して噛み締める。 隼人君が自らの掌と重ねた。 「なごみさん、ご飯はちゃんと食べてましたか?」 「うん」 「昨日は何食べました?」 「……えーと、ゴーヤーチャンプルー食べた。お疲れさま会をしてもらったんだ。沖縄の豆腐って硬いんだよ」 「それだけ?ご飯は?」 「お酒も飲んでたし、あんまり食欲無かったから」 「……はぁ……ダメじゃないですか」 「ごめんなさい」 肩すくめて謝ると、隼人君は満面の笑みを浮かべる。僕はその笑顔に蕩けそうになった。 「レンタカーを借りて、観光とかカップルらしいことをしませんか」 「……うん。その前に飛行機の変更と、着替えをしてもいいかな」 「勿論です。さ、行きましょう」 僕たちは付き合ってから旅行をしたことがない。いつも近場か家だった。 初めての遠出に南国の雰囲気も加わり、胸の高鳴りが止まらなくなる。どうしようもないくらいのわくわくと、隼人君への愛しさが込み上げてきた。

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