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第258話夏の宵に君へ伝える15

(なごみ語り) 小一時間ほど横になって、体力回復に努めた。泥のように寝ていた僕とは反対に、隼人君はホテル内を散歩したり、土産を物色していたらしい。10時近く、レストランの閉店時刻が迫ってますと起こされた。 シャワーを浴び、ホテル内にあるレストランで軽い夜食を摂る。確か、チェックインの前に沖縄そばを食べた。にも関わらず、目の前の恋人は、腹が減ったとカレーライスを食している。アグー豚をふんだんに使った名物のホテルカレーは見た目は美味そうだが、僕の胃袋には無理だった。 食後は、バーへ行こうと隼人君を誘ってみたが、話したいことがあるのでアルコールはその後にして散歩しません?と、ビーチへ案内された。 「夜の海も気持ちがいいね」 「本当に。夜もいいっすね」 数時間前までは人で賑わっていたビーチも、数人が散歩しているだけで、波の音が静かに時を刻んでいる。砂キシキシと踏む音が面白くて、踏みしめながら歩いた。 砂浜で並んで腰を下ろす。 わざわざ改まって何の話だろうかと、不思議に思った。 「…………あの…………」 「うん」 横顔ばかり眺めていたら集中できないと困るので、真っ直ぐ前を見た。寄せては返す波は、 心地よいリズムを奏でている。潮の香りはそんなにしない。 星は都会よりもずっと多い。瞬きが手に取るように分かるのだ。きっと見える星座も違うのだろうが、僕にはよく分からなかった。 少しの間を置いて、隼人君が口を開く。 「実は兄貴が、結婚することになりました」 「ええっっ!!あ、え、それは、おめでとう!!」 黙って聞く、が最初の一言で出来なくなった。 「いやいや、別にいいんです。結婚は本人の自由ですから」 「お相手はどんな人なの?」 「兄貴の和菓子に惚れ込んだOLさんです。通っているうちに恋が芽生えたらしいです。安っぽいドラマか小説かって突っ込みたくなりますが」 隼人君の兄である寛人さんは、隼人君が新部署で必死になって働いているうちに、着々と愛を育てていたようだ。 「しかも彼女のお腹には、赤ちゃんがいまして。いわゆる『授かり婚』です。これも、大野家にとってめでたいことです。跡継ぎが生まれる訳ですから」 「隼人君がおじさんになるんだね。隼人おじさん。ふふふ笑える」 「まさか。おじさんなんて呼ばせませんよ。隼人兄ちゃんにします。いやいやいや、話したいことはそんなことじゃなくて」 「じゃあ、何?」 ねっとりと湿気を含んだ海風が、一瞬爽やかに吹き抜ける。 隼人君が真面目な表情で僕を見た。いつもの大好きな瞳が僕を見据える。 「なごみさん、一緒に暮らしませんか。俺と、ずっと一緒にいてくれませんか」 ここが沖縄で、しかも付き合って初めての旅行とかそういう浮かれた状況を吹っ飛ばすくらいのパワーワードに、頭が真っ白になった。

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