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第259話夏の宵に君へ伝える16

(なごみ語り) 「それって……」 ほぼプロポーズじゃないか。と喉まで出かかって言うのを止めた。 「お嫁さんと赤ちゃんが実家で暮らすので、次男で家業に関わりがない俺は独立するしかなくなりました。俺は、ずっと貴方と暮らしたかった。なごみさん、俺と同棲してください。ずっと一緒にいてください。貴方と共に生きたい」 面と向かい、真剣な眼差しで隼人君が僕に言う。 「ダメですか……?」 「…………ダメ……じゃないけど」 「じゃないけど、何ですか?」 「もしかしたら、僕の自堕落な生活は君を困らせるかもしれないし……」 「そんなことは前から知ってます。俺が面倒見ますのでご心配なく。寧ろ、心配事が減って楽になります」 「…………ずっと僕と居たら、嫌いになっちゃうかもよ」 「その可能性もありません。無いに等しいです。今でも日々どんどん好きになってますから。貴方は無自覚すぎる」 何を言っても彼は動じない。それだけの覚悟をしてきているのだ。 僕と共に生きることを決意している。眩しいくらい真剣で真っ直ぐな気持ちに、僕が異論を唱えることは出来ない。 この人について行こうと心の底から思った。 愛想を尽かされてもいい。本気で人を愛せたことを誇りに思おう。そんな気持ちにさせてくれた彼へ、命の限り僕の全てを捧げよう。 僕は深呼吸をした。夜の静かな空気に満たされる。 「こんな僕でよければ、ずっと一緒にいて下さい」 「…………ってことは……」 「一緒に暮らそっか」 「いいんですね?本当に……いいんですね?」 「何度も同じことを聞いたら、気が変わるかも」 「ええっ!!もう言いませんけどっ!!」 「ふふふ、嘘だけど」 「またぁ……そうやってすぐ揶揄う。なごみさんの冗談は冗談じゃないから、ヒヤヒヤするんすよ」 僕は隣に座っている彼の手を握った。 「ありがとう。これからもよろしくね」 「はい。ずっと一緒に笑っていましょうね」 「うん」 どこからともなく、2人の唇が重なる。 それはまるで、結婚式でするような誓いのキスに似ていて、恥ずかしような、むず痒いような、お腹の底からワクワクするような、未来への希望を感じさせる口付けだった。 いつの間にか出た月が2人を照らしている。 僕にはもう涙は必要ない。 【END】 これにて一旦完結となります。 ありがとうございました。 付け加えです。沖縄支店長は東室長に無事捕らえられて懲戒免職となりました。 妻子にも見捨てられた沖縄支店長は、玉田の正式な居候となったのではないかと、まことしやかに囁かれたみたいですが、真偽は定かではありません。 と、本文に入れたかったけど、余力が尽きました。

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