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第261話 StayHome1
在宅勤務を命じられて、早や2週間。毎日数回のミーティングと、資料作りを自宅でやっている。東室長は殆ど毎日出社して、室員へ指示を送っていた。誰もいないオフィスは実に静かだと、冷徹男は画面の前で清々しい笑顔を見せている。
今朝は、室長から送られてきた添削に直しを加えていた。秘書業務は、上司あっての仕事なので、社長が動かなければ僕も仕事はない。現在会社は眠っている状態であり、室長の話だと、白勢社長は専らお籠り生活に精を出しているとのことだった。
オンラインミーティングが終わったら僕も有給消化をする予定である。とは言っても、数あるうちのたった2日間しか使えないのだが。
『和水は明日から2日間休みだな』
『有給が溜まっていたので丁度良かったです。白勢社長は、お元気ですか?』
『あの人は知らん』
また出た。室長の『知らん』は、社長の独り善がりの行動についてのみ発動する。
『姿も見かけないし、指示も飛んでこないので、社長は出社していないかと思うのですが』
『とにかく知らん』
これは相当怒っている。また何かしでかしたのだろう。大好きなくせに、お互い意地っ張りで喧嘩ばかりしている。
触らぬ神に祟りなしだ。2人の問題は2人で解決してもらおうと、僕は社長に対して話題にするのを諦めた。
『秘書室でオンライン飲み会をやるそうなのですが、室長はいかがですか』
同期の八木さんに頼まれていたことを、彼女の指示通り『さりげなく』口にした。
だが、秒で室長の眉間に皺が寄る。
『そういうのは仲良しグループでやってくれと、八木に伝えてくれ』
『ははは……お見通しですか』
『和水を通して話を持ちかけるとか、やり方が見え見えだ』
『伝えておきます。室長も根詰めないようにしてくださいね』
『俺はいつだって普段と変わらないよ』
突然、書斎のドアが少し開き、買い物から帰ってきた隼人君の顔が覗いた。
「ただいまー、なごみさーん、美味しい豆腐が買えましたー、綺麗な水を使っているらしい…………あ、東さん、すみません」
『相変わらずうるさい奴だな』
「東さんも元気そうで何よりです」
にこにこと隼人君が部屋に入り、僕の肩を軽く抱いた。東室長は僕たちの事情を誰よりも知っている。
『大野は楽しそうだな』
「営業は休みばっかです。お客さんが休んでるんでしようがないですが、俺には都合がいいです。堂々といちゃいちゃができます」
「ちょっと、隼人君っ……仕事中。あっち行ってて」
手で押しても、ビクともしない笑顔の持ち主は、更に満面の笑みを浮かべた。
「こういうのとか、可愛いくてたまんないっす」
「んもう、うるさい」
『駄犬だな。躾が必要じゃないか』
「俺は犬じゃないです」
『どう見たって犬だろう』
だから犬って言われるんだよ。
隼人君を無理矢理室内から追い出す。程なくして室長とのミーティングは終わった。
束の間の休日が始まる。
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