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第262話 StayHome2

朝起きると、毎日欠かさず検温をする。正しくは、隼人君が体温計を差し出してくるので、脇に挟み、キスの嵐を受けながら寝ぼけ眼で測定する。まとわりついてくる大きな犬が、温かな手で僕を包むものだから、あやうく二度寝しそうになってしまう。 在宅勤務になってから、隼人君が先に起きるようになった。僕の知らない間に起きて、家事をやったり、仕事をしたり、朝活を謳歌している。彼は朝型生活が適しているらしく、基本早寝早起きだ。 「なごみさん、おはようございます。朝ですよー。今日も平熱、顔色も悪くありませんね」 「んー……おはよ」 「はいはい、早く起きて、朝ごはん食べちゃってください。今日はシーツを夏物に替えたいんです。ほら」 僕が起きようとすると、隼人君がぐいと顔を寄せてきた。 「何?」 「髭、生えてますね」 「男だから生えるでしょう」 「あんまり生えてるとこを見たことがなくて。新鮮です。なんか柔らかい」 こちょこちょと顎を擽られる。 「俺もあんま生えませんけど、貴方とは違うんだなと思います」 「違わないよ。喉仏もある」 足も脇も少ないだけで、生えなくなはない。 「しっかり男なのに色気もあるとか、どうなんですか」 「どうもしません。すべて君の妄想です。だいいち、隼人君だって十分色気があるからね。僕ばっかじゃないよ」 「それこそなごみさんの妄想じゃ……」 堂々巡りの会話に終止符を打つべく、僕は隼人君の唇を塞いだ。  しかし、このワンコは非常に臨機応変で、たじろぐことなく、僕の唇を貪り始める。あっという間に彼に主導を奪われた。寝起きのぼんやりした頭は、なすすべも無く、勢いのある舌に翻弄されてしまう。 (気持ちよくて、頭がぼーっとする。朝からこんなことしてていいのかな……) 隼人君は、僕の腰を引き寄せ、するりとスウェットの中に手を入れた。いやらしい手つきは、直に俺の尻を揉み始める。 「…………ん、はぁっ、も、朝からやめて」 僕は食いつかれそうな口を必死で剥がした。起きた早々、セックスでもする気だろうか。 昨晩もその前も、申し合わせたように眠る前はセックスをしている。 求められるのは、素直に嬉しい。 だけど、節操がないのも嫌だった。恋人と同棲する時点である程度は覚悟していたが、隼人君の求め方は想像の斜め上を超えていた。 「そっちからしておいて、なんなんですか」 「朝から、しないよ。お尻が痛いから、暫くやりたくない……」 「えええっ、大丈夫ですか?病院行きましょう」 「これ以上触らないで。そのうち治る」 「心配です。中ですか?外ですか?塗り薬で事が足りますか」 「自分で塗るから、放っておいて」 東室長の言う通り躾が必要だと、まとわりつく彼を感じながら、痛感した。  

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