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第264話StayHome4

「…………ということがあったんだ」 「ふうん。で、あんなに素直なのか。中学生みたい」 週末の土曜日、僕達ら少し遠くにある渉君の街まで散歩に出かけた。折角だからと、渉君に声を掛けたところ、近くの公園まで出てきてくれたのだ。 人が少ない公園で僕と渉君はベンチでお茶を飲む。隼人君は渉君の恋人である円君とサッカーをやっていた。ボールは弧を描いて、2人の足へ交互に収まっている。パス練習から距離が段々開き、音を立ててボールが宙へ舞った。 空は快晴で燦々と太陽の光が降り注ぐ。時折流れるぬるい風が夏の訪れを告げようとしていた。 「一緒に住むって難しい。僕達も揉めるよ」 「え、渉くんも?」 「生活習慣の違う2人だもん。どっちかが譲歩するしかないでしょ。僕がストイックなぶん、円君の我慢が爆発したり。特に食べるものはね、僕はジャンキーなものを受け付けないけど、渉君は大好きだから。普通の男の子だし」 「それは分かるかも。僕も渉君の食生活にはついていけない」 「洋ちゃんは、無頓着過ぎなだけでしょ」 現在、渉君の鍼灸院は事実上休院状態である。再開も未定だ。大変でも弱音を吐かない彼は、いつも以上に規律を持って暮らしているように見えた。 「大野は我慢してスポーツで発散しているのか」 「外で汗をかくことも気持ちがいいって言ってた」 「そりゃあ好きな人には嫌われたくないから、そう言うしかないじゃん。相当我慢してるだろうよ。洋ちゃん、今夜は覚悟したほうがいい」 「…………え。冗談……たった2日だよ」 隣を見た僕に、渉くんが真面目な顔をして答えた。 「今の世の中、不安だらけで、この先どうすればいいのか、世界はどうなっていくのか、誰も教えてくれない。けど、生きていかなくちゃいけない。大野も不安なんだと思う。気にしていないように見えて、ああいうタイプが1番ストレスに弱いんだよ。唯一、洋ちゃんが受け止めてくれる存在なんだろう。身体の負担にならない程度に、できる限り大野の相手をしてあげて。恋人の幸せは、洋ちゃんの幸せでしょ。僕は大野がちょっと心配かな」 驚いた。まさか、渉君から隼人君を庇う言葉が出るとは思ってもいなかった。 「そう、なのかな……」 「セックス=性欲ではなくて、安らぎや安心を求めている場合もあるの。生きている証を洋ちゃんに求めてると思う。洋ちゃんに受け止めてもらうことが、今の彼の生きる糧になってる」 確かに、思い当たる節はあった。 「…………隼人君が大好きな仕事も、今は思う存分できない。人が好きなのに、人に会えない。営業が天職だと豪語していたから、辛いだろうなとは感じてた」 「ほら。鈍感ぶってるけど、敢えて口にしていないだけで、相当不安定だよ」 「わかってる」 「今できることは恋人を愛すること。これ以上はないと、僕は思う。手のかかるワンコだけれど、洋ちゃんにとっては大切な人でしょう」 僕は手にしていたペットボトルのお茶をぐいと飲み干した。 「渉君、ありがとう。進むべき道が見えてきた。できることをやってみる」 「落ち着いたら、ゆっくり治療してあげるね。それまで頑張ろう」 「うん」 今日の空のように、気持ちが晴れやかになる。 「はやとくーん、そろそろ帰るよー」 「わっかりましたー、これ蹴ったら帰りますー」 恐れることはない。真っ直ぐ前を向いて歩いていこうと思った。

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