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第270話StayHome10おまけ
【なごみの上司、東室長のお話です】
家の中がカオスだ。東征士郎は、沢山の毛玉に身の毛がよだつのを感じた。
カンナが征士郎を見付けて擦り寄ってくる。カンナ1匹だった飼い猫が、今となっては5匹に増え、家中が猫に侵されていた。
リモートワークにやり甲斐を見い出せず、散歩を日課としていた白勢が生後間もない仔猫を拾ってきたのは1か月前だった。他にやることがないからと、仔猫の世話を始めたのである。
いやいや、やることなんて山ほどあるだろう。仮にも社長だ。こんな世の中をどう生き抜くか、策を練るべきではないのか。
だが、そんな東の意見など聞く耳持たないのが白勢であり、やりたいことをやりたい時にを貫くスタイルが彼の生き方であった。そうやって会社のトップに就いた。しかも、何をやっても結局妻(東)はついてきてくれることを本能的に彼は知っているので、何も問題はない。
白勢は仔猫にまみれて寝ていた。無理もない。数時間おきに仔猫の世話をしているのだ。しかも一度に4匹も。彼は電池が切れたように爆睡していた。
拾ってきた当初は大喧嘩になった。断りもなく居候が増え、征士郎の負担が倍以上に増えたからだ。しかし、結局のところ白勢が自分で面倒を見るからと約束をしたため、征士郎は渋々承諾した。約束通り、仔猫の世話に関しては迷惑を掛けなかった。
(猫ばっかりで、仕事は俺に押し付けて。自分は気持ちよく寝落ちですか)
無性に腹が立ったので、征士郎は白勢の頭を軽く蹴った。それでも白勢は起きる気配が無い。
私服に着替え、カンナに餌をやる。今日は、リモートワークの調整と社長関連の庶務で一日が終わった。明日は自宅勤務だが、近いうちに再び出社しなければならない。
「みー、みー、みー……」
征士郎の気配で仔猫達が急に起き出し、何やら騒ぎ始めた。時間からしてお腹が空いたようだ。
「お前たちの『お父さん』は寝てるから、まずはそっちを起こせよ」
「みー、みー、みー、みー、みー、みー」
うるさい……しかし、寝ている白勢を起こすのは憚られた。仔猫の世話で常に寝不足なのを知っているからだ。
「みー、みー、みー、みー、みー」
「ちょっと待ちなさい」
「みー、みー、みー、みー、みー」
「あーもう、しょうがないな」
ふやかしたキャットフードに、猫用ミルクをかけたものを作る。白勢がいつもやっているので、大体の世話は分かる。
「…………征士郎、ごめん。寝てた」
慌てて白勢が起きてきた。髪もぼさぼさで、髭も生え放題。いつもの覇気は無く、ただのおっさんである。ただ、締まった身体はこの状況でも変わっていない。
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