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 芹沢匠(せりざわたくみ)。  俺と同じアルファで、例の出来過ぎた容姿を持つ親友だ。  それ程手をかけてなさそうなのに、妙に格好のついた黒髪のショートヘア。例え猛暑の中に立たされても、暑さなど一切感じていないように見える透明感のあるその顔立ちと、少々がっちり型である俺よりも遥かにスマートな体つきは綺麗であるのに決して女々しくない。  家柄までもが超上流階級な匠は、謂わばアルファの中のサラブレッドだ。モテないはずがなかった。 「なぁ夕士、良い加減現実を見たらどうだ」 「何だよ藪から棒に」  訝しみながら匠を見つめれば、匠は綺麗に整った眉を器用に片方だけ下げた。 「振られる原因、本当に顔だと思ってるのか?」  ぐっ…、本当に嫌なところを突いてくる奴だ。  分かってる。いや、最近漸く分かったのだ。俺が振られる原因ってやつが。  どうやら俺は、家柄やアルファらしい出で立ちでは補えないくらい面白みのない男らしい。 「お前、セックスが下手なんだって?」 「えっ、そこぉ!? って言うか誰に聞いたのぉ!?」 「夕士の“恋人だった”子達数人から」 「ぇえっ!?」  俺は匠の足元へ崩れ落ちた。  何故だ、どうしてだ、そんな酷いことってあるか? 俺はアルファ一族に産まれたアルファだぞ? 勉強もスポーツも、与えられた事は何でも苦労することなくやることができた。デートだってソツなくこなしたし、セ…セックスだって、いつもみんな…それなりに楽しんでくれていたはずで…。 「『教科書みたいなセックスだった』って言ってたな」 「ンなっ!?」 「あのな、夕士。ただ入れて揺すれば良いってもんじゃ無いんだぞ?」  こんな責め苦ってあるか? 大学も後一年程で卒業するって歳になって、同じアルファであり、俺より遥かに出来の良い男に、それも付き合いの長い親友に、セックスの仕方を教授されるなんて!  俺は自分でも分かるくらい顔を紅潮させて叫んだ。 「そんなこと言われなくても分かってるよっ!」 「分かっていても出来てないからオメガ“なんか”に振られるんだ」 「そんな言い方止めろよ、失礼だろ?」 「アイツ等の方が遥かに失礼だろう」  隣で匠が空気の温度を下げた。

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