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「アイツ等はアルファをブランド品か何かだと勘違いしてる。だからセックスの上手い下手で簡単に相手を乗り換えるんだ。幾らセックスが下手でも、夕士は良い所が沢山あるって言うのに」
「おまっ、何回も下手って言うなよ! ワザとだろ泣くぞ!」
俺は匠のセリフで本格的に泣きそうになりながらも、「でもさぁ…」と諦めの息を吐く。
「性の不一致が原因じゃあ仕方ないだろ? 幾ら仲良くても、性の不一致で別れることもあるって聞くし」
「不一致じゃない。夕士は“下手”だから振られたんだ」
「もう止めて!!」
「お前は悔しくないのか? その辺で大量に売ってるボールペンのサンプルみたいに試されて」
俺は文房具コーナーにある、『sample』のテープを貼られたボロボロのボールペンを思い出した。
悔しい…のかな。使い勝手がどうなのかって、誰でも気になる事なんじゃないだろうか。
そう考えてみると、直ぐに振られた自分への不甲斐なさは感じるものの、別れを切り出した恋人への未練や執着などが殆んど無い自分に気付く。
愛しいだとか恋しいなんて言う個人的な感情は後回しで、アルファとしての自分に合うかを試している部分があるんじゃないだろうか。だから別れを切り出されても引き止めた事は無いし、去ることを恨んだ事もない。またスタート地点に戻った事を面倒に思うくらいだった。案外俺も、冷たい人間なのかもしれない。
ただ、もしも俺が匠みたいな容姿だったらもう少し相手の気を惹きつけておくことが出来たんだろうかと。それを考えると、心が少しだけささくれ立った。
「下手なら仕方ないよ、俺が悪いんだから。アルファとしては恥ずかしい話だけどな」
ははっ、と強がって笑って見せたけど、どうやら失敗してしまったようだ。匠が眉間に深く皺を寄せた。
「夕士がそれで良くても、俺は良くない」
「え?」
「俺はお前が馬鹿にされるなんて許せない。だから俺が教えてやる。俺が夕士を“教科書通り”から卒業させてやるよ」
「………は?」
ポカンとした俺に向けて、匠はこれでもかってくらい綺麗に笑ってみせた。
「しっかりカラダで覚えろよ?」
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