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芹沢匠:1

 物心が着いた時から、自分が特別なんだと理解していた。  嫌でもそう自覚させられる環境で育ってきたのだ。それは酷く退屈で、全ての先が想像できるなんの面白みもない生活だったが、ある日そんな生活を一変させてくれる奴が現れた。 「夕士」  構内にある庭園の芝生でくつろぐ友人に声をかければ、その目は面白いほどに宙を泳いだ。 「た、た、匠…なんか、用か?」 「酷いな、用がなきゃ友人に声もかけられないのか?」  自慢の笑顔を向けるが、夕士は俺を見ちゃいなかった。その目は宙をゆらゆらと漂ったままだ。そんな、目を合わせようともしない彼の隣に無遠慮に腰を下ろし、ぴったりと躰をくっつけた。 「何だ、やっぱり躰が辛いのか?」 「なっ!?」  腕を夕士の腰に回し、そこから少し下のあたりを意味ありげに撫でれば、いつまでも泳いでいた目はついに俺に捕まった。  耳まで真っ赤に染まった肌が、熟した林檎の様に芳醇な香りを漂わせる。それはどんなオメガが放つフェロモンよりも、甘く甘く俺を魅了した。 「無理して帰ったりするからだ。今日一日休んでいればよかったのに」 「た、匠っ!!」

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