7 / 9
芹沢匠:1
物心が着いた時から、自分が特別なんだと理解していた。
嫌でもそう自覚させられる環境で育ってきたのだ。それは酷く退屈で、全ての先が想像できるなんの面白みもない生活だったが、ある日そんな生活を一変させてくれる奴が現れた。
「夕士」
構内にある庭園の芝生でくつろぐ友人に声をかければ、その目は面白いほどに宙を泳いだ。
「た、た、匠…なんか、用か?」
「酷いな、用がなきゃ友人に声もかけられないのか?」
自慢の笑顔を向けるが、夕士は俺を見ちゃいなかった。その目は宙をゆらゆらと漂ったままだ。そんな、目を合わせようともしない彼の隣に無遠慮に腰を下ろし、ぴったりと躰をくっつけた。
「何だ、やっぱり躰が辛いのか?」
「なっ!?」
腕を夕士の腰に回し、そこから少し下のあたりを意味ありげに撫でれば、いつまでも泳いでいた目はついに俺に捕まった。
耳まで真っ赤に染まった肌が、熟した林檎の様に芳醇な香りを漂わせる。それはどんなオメガが放つフェロモンよりも、甘く甘く俺を魅了した。
「無理して帰ったりするからだ。今日一日休んでいればよかったのに」
「た、匠っ!!」
ともだちにシェアしよう!