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芹沢匠:2
アルファの友人の中でも特に親しい、親友であった夕士を抱いたのは昨日のこと。
高い身長と、しっかりとした体格。特別な教育を難なくこなす能力は紛れもなくアルファであったが、その容姿は特に秀でておらず、ベータやオメガと間違えられることはなくともアルファらしくないのもまた事実だった。
そんな自分の容姿をコンプレックスに持っている夕士は、オメガから見てもアルファとして少し役不足だったらしい。いつも下らない理由で振られている。
だがそんな劣等なアルファである夕士こそが、俺の人生に光を入れ、モノトーンだった世界に色をつけてくれた。
アルファであるのに、アルファのいやらしい部分がごっそりと抜け落ちたような…不思議な男。本来同性に生まれるはずの毒気と敵対心を抜かされ、代わりに生まれるのは愛しさばかり。
どんなことを置いてでも大切にしたいと、一緒に居たいと思える人間に初めて出会ったのだ。
夕士に出会ったその時に、俺は漸く〝人〟として人生を歩み始めた。
「夕方から明け方まで抱いたんだ、幾ら俺が上手いといっても躰に負担が無かった訳じゃないんだぞ」
「おまっ、何げに上手いアピールすんなよ!」
「おかしいな、気持ち良くなかったか?」
「ッ、」
「そうだよな? オメガでもないお前が、初めて男を受け入れてあんなにイきまくったんだから死ぬほど気持ち良かったにちがい」
「わぁぁあああああぁつ!!」
発狂した夕士が、俺の口を手で押さえる。その手のひらをべろりと舐めてやればまた、夕士は奇声を上げて芝生の上を転げ回った。
「もうやだぁああ! 匠お前なんなのほんとぉ!」
「何が?」
「何がじゃないだろぉ何がじゃあ! 教えてくれとは言ったけど、あんなっ、あんなっ」
「何度も抱かれて何度も尻でイくつもりはなかったって?」
「ちょっとぉお!!」
最早夕士は号泣寸前だ。
「ほんとに可愛いな、夕士は」
「なに言って…」
「あの、館川くん」
俺の指先が、転がる夕士の前髪に届くその直前、ドロリとした甘ったるさが鼻につく声に邪魔をされた。
「今、ちょっといいかな?」
「あ、あぁ…なに?」
上半身だけ起き上がった夕士の肩ごしに見た、立ったままこちらを見下ろすソイツには見覚えがあった。
以前、一度夕士に抱かれたそのすぐ後に俺の元へとやってきたオメガだ。夕士と関係を持つと、俺とも寝ることができるという噂を聞いて来たのだろう。
実際、何度か夕士の食い残しをさらえたことが原因であるのだが。
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