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第10話
19:30
「よお」
「っ」
「そんな怯えるなよ」
「七海」
長いコートを翻しながら、彼がバス停に立っている。
「バス停の近くに車を止めては駄目だろ」
「てめえがすぐに乗ってくれるなら、問題ねえんだけどな」
「……っ」
ポケットに入っている抑制剤を握りしめて、僕は覚悟を決めて頷いた。
「……距離を置こうって君が言ったのに、毎日店に来たら意味がないだろう」
「言っとくが」
彼は前を向いて、僕の方を見なかった。
右折しながら僕から顔を背けているようにも見える。
「俺は距離は置くが、別れたつもりはない」
「……」
「もう大学時代から10年だ。あんたと離れたくなくて何でも言う通りにしてきたが、間違っていた」
「どういうことだ?」
「……俺のセックスが下手なんだろ」
「ぶっ」
全く予想していない言葉に、思わず吹き出してしまった。
全くの見当違いの言葉だったが、それは僕が彼に気持ちを言っていなかったからだと気づいた。
「僕ね、乱暴に服を逃がせた後に、必死でボタンを探したり金具を修理しようとあたふたする君が好きだったんだ」
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