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別に、俺は金が稼げれば就業条件が悪かろうが過労死しようがどうでもよかった。
こうやって高校に来たのも、中卒より高卒の方が稼ぎがいいのは当たり前だし、まだ猶予があったからそれを取りに行っただけ。
もし中一で同じ状況なら高校進学は諦めていたと思う。
周りがヒートアップする中、俺は冷めていく一方だった。
だって、どう考えてもおかしいだろう。
大人4人に子供7人を抱えて収入源は二人だけ。しかも一方は産休に入る。
産休中も給料は入るとはいえ、出産費用や育児にかかる金、育休だってそんなに長くない。保育園に預けるにも金がかかる。弟達の進学は?その先は?
そうなった時、誰が家計を助けるのか。
:いつ卒業できるかわからない姉か?!
:働きたくないからと夢を選んだ兄か?!
:どう考えても自分!だろう。
なぜそれがわからないのか。
うちの親はそれほど馬鹿だったのか?
と、若干絶望気味に父と話をした。
「別に中卒でも働けるとこはあるだろ。ブラックでも働かないよりマシじゃないか。」
「そんなことないぞ。高校や大学を出るっていうのは大事なもんだ。」
「働きながらでも高卒認定は取れる。大学は別にいい高い金払って日和みたいになりたくない。」
「そういうことじゃない。確かに日和みたいに留年され続けるのは困るけどな?」
酔ってるんじゃないかと思うくらいに軽く話す父親に嫌な予感がし始める。
「いいか、これは他人の受け売りだが、小中までのつながりっていうのは弱いもんだ。義務教育で決められたところからかき集めただけだからな。でも、高校や大学は違う。
勉強したい。こういう資格が取りたいって集まってきてるんだ。だから高校で気が合うやつとか、仲良くなったやつとは長い付き合いになる。」
だめだ。話の主軸がずれてる。うちの親は馬鹿だったのか...。
「そこでだ。次にお前が行く学校は坊ちゃんばっかりだろ?だったら玉の輿ができるかもしれん。」
...馬鹿じゃないな。アホなんだ。
「父さん、玉の輿は女に使う言葉だろ。俺は男だ。乳はないし、ついてるもんはついてるぞ。」
「そうじゃない。上手くいけば上流社会とコネが持てるってことだ。他に言い方が思いつかなかったんだ仕方ないだろ。」
「普通にそういえばよかっただろ。」
よくいえばお調子者、
悪くいえば空気が読めない。
真剣な話をしているのにそういう物言いは腹が立つ。
やれやれだぜ。みたいな顔で話が続けられる。
「悪かったな、ちょっとかっこつけたかったんだよ。
それで、いいとこのお坊ちゃんと仲良くやれればコネもできる。将来職に就く時このコネが役に立つかもしれない。先生も言ってただろ?羽振りがいい会社に付けば後々楽だって。」
「そう、だけど。苦しいのは今だろ?今いるのに後々楽になるのって意味無いんじゃないか?」
「意味無いことは無いぞ。お前に彼女が出来て、結婚した時、中卒で家族養っていくのが辛いってなったら俺は死ぬほど後悔する。」
「は?」
なんでそうなる。今は俺に彼女がとか結婚とかそういう話してないだろ。そもそも、
「俺結婚しないし。」
「わからんだろう?俺だって高校の時は一生独り身だと思ってたのに、今じゃ8人家族のお父さんだ。お前もいつか家庭を持つといい。」
「そうじゃなくて!」
今そんなお気楽話してるんじゃないだろ。
イライラする。
からかって楽しんでるんじゃないかと思うほどに父の考え方は楽観がすぎる。
「わかってるよ。お前は頭がいいからこの状況をよく理解して、一番いい方法を選んでるんだよな?
確かにお前が働いてくれたらすごく楽になると思う。母さんも安心して産めるだろう。でも……。」
「情けないじゃないか。自分の稼ぎで家族を養っていけないから子供の将来を潰して手伝ってもらうだなんて。」
「っ……。」
そう言う父の顔は眉が下がって、目尻が赤くて、本当に情けない。
「お前には俺みたくなって欲しくないんだ。
高卒資格を取るためでも、コネを作るためだけでもなんでもいい。ちゃんと高校を卒業して、大学でも専門学校でもいい、したいこと見つけて資格とって、一人前に育って欲しい。その上で家計を助けてくれるってんならラッキーだ。そう思いたい。そう思わせて欲しい。完全に俺のわがままだ。」
付き合わせてごめんな?
俺の頭を撫でながヘラリという擬音が似合うその笑顔は
やっぱり情けなかった。
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