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** 来たる11月、推薦前期の中学生たちと同じ時期に俺は私立藤沢学園高等部の編入試験を受けに隣県の山間まで足を伸ばしていた。 さすが私立の坊ちゃん学校。 校舎が馬鹿みたいに広い。 試験会場はこちら という看板矢印の先がだだっ広い空間ってどういうことだよ。 まぁ、空間というか校庭なんだろうが校庭と運動場はまた別らしい。 グリーンカーペットに花壇が均等間隔に並んでいて、ど真ん中に噴水があって、 いや、もういい。頭痛くなるから説明したくない。ただ、ほんとに庭園って感じだったとだけ言っとこう。 とりあえずどっかの御曹司が出てくるタイプの乙女ゲームに出てきそうな学校を思い浮かべてくれ。大体そんな感じだ。 引率の教師をやっと見つけて試験会場に入る。 俺みたいに編入試験を受けるのであろう生徒が何人か廊下でそわそわしているのが見えた。 一応中学生たちとは試験会場が違うらしく、数人でかたまって教室に通される。エアコン完備で床はピカピカ、普通の黒板の横には大型テレビと同じサイズの電子黒板。普通の黒板で事足りるだろ……。 ぐるりと教室を見渡したところで教師に指示され、受験番号の書かれた席につく。 解答用紙と問題用紙が配られ、チャイムとともに試験が始まった。 試験自体はそんなに難しくなかった。もらって解いた過去問は脅しのために難しかったんだなと思える程度に簡単だった。 周りで頭を抱えて唸っているやつの気が知れない。 面接では自分の家庭のことを控えめに押し出して今まで1年間勉強とバイトを両立し、家計の足しになるよう努力してきたこと、これからも両親になるべく心配と迷惑をかけないようにしたいとはっきり述べて部屋を出た。 手応えは十分にある。落ちたということは無いだろう。編入も入試の一部だから定員数に含まれるそうで、俺たちが受かった分だけ中学生が落ちると考えるとかわいそうに思わなくもないが、俺も家計がかかってるんだ悪く思うな。 今日は土曜で父母はどちらも仕事だと言ったら担任が送迎をしてくれると言ってくれた。校舎裏手にある保護者用の駐車スペースに戻ると車に寄りかかる担任の後ろ姿が見えた 「せんせ…」 「うん、そう。もうそろそろ終わんじゃねえかな。」 電話中か、邪魔しちゃ悪いな。 と思って声をかけるのをやめた。まだこちらに気づいた様子はない。 「…三年目であたり引いちゃうなんて俺もついてるなー。私立の面接受ける時に箔が付くってもんだよ。『学校をやめようとしていた苦学生を説得して藤沢学園に編入させました』ってね。」

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