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** 鞄だけ置いてモニターをつけると、黒くて丸い頭のてっぺんが見えた。 「小山田、近い。」 『え、あ、ごめんつい。』 同じクラスの小山田学(コヤマダガク)。 低身長に丸メガネ、これといった特徴がないのが特徴のクラスメイト。 席が近いわけでも、特に親しい訳でもない小山田がなぜここを訪ねてくるのか。 それにはきちんと理由がある。 リビングに彼をあげると、言峰先輩への挨拶もそこそこにテーブルの上にどさりと置かれる重そうな紙の束 「いつもすまないな。俺もパソコンを持っていればUSBで受け渡しができるのに。」 「大丈夫だよー。USBは持ち運び楽だけど無くしやすいし盗られやすいからー。紙媒体でこれだけ量があればなくなったらすぐ気づくし、保管は君の頭の中だしね!」 会話の内容的にはちょっと危ない気がしなくもない。 「それで、今回はこの束のが重要かな。生徒会主催の学年別学外研修旅行の日程のスケジュールとその内でキングがフリーになるであろう時間帯。」 彼はなんの特徴もない、しがない情報屋である。 男にしては細いからだ 大きなメガネのせいで幼く見える顔 声変わりした割に高い声 総合的に無害そうな彼はそれを利用してあちこちから情報を集めては必要とする生徒に提供している。 今俺は小山田の情報を買っている。 それが彼がここに来る理由だ。 『趣味兼将来のお仕事に関係するからねっ。』 と胸を張って言った小山田は見た目も相まってどこか幼く、自分の弟を思い起こさせた。 今回俺は言峰先輩の伝手で小山田の裏の顔を知り、阿佐ヶ谷の情報と俺の情報を交換してもらうことにした。 『人のプライバシーへの踏み込み方は俺の方が熟知してるから』 聞いたことにだけ答えてくれればいいと言う小山田にありがたく話したくないことは話さないままでいる。 広げられる紙に記された情報をメモをとることもなく、重要だと思う部分だけ抜き出して頭に入れる。 学外研修という名の遠足で、阿佐ヶ谷がフリーになる時間。 それは、やつの崇拝者がやつを押さえておけない時間だ。つまりは移動時間の隙間とか、班行動の隙間。 常人ならその隙間に何か出来るはずもないが、そこは腹立たしいかな、「デキる」男だ。 なにか仕掛けてくる。絶対だ。 今日だって教室から昇降口までの大体3分を捕まえに来た。 小山田は俺の帰宅時間の情報を持っていない。 というか、意図的に帰宅時間はずらしているから情報の掴み用がないだろう。 やつはやつでなにか情報網を持っているようだ。 にしても、学外研修か...勉強に関係ないなら行かなくてもいいが…いかんせんLHRに含まれるから出欠がとられる。 つまりは後々少しだけ内申に響かないとは言いきれない。 面倒だ。

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