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第3話

そんな下らない会話など忘れて数日…。 フォスは村にいる教授と通信でいつもの口論を繰り広げていた。 魔力がある者同士が繋がる魔法陣を使っての通信で、目の前には教授が座っているような像が見える。勿論、それはお互いの魔力が見せる虚像だ。 「だーかーらー!カワーチの街の人が次々に病に倒れるのは何らかの伝染る病体?みたいなものがあるんだって」 カワーチの街というのは少し離れた所にある城下町だ。最近そこで局所的に病人が増え、死に至っている。 その事をカワーチの商人に相談されて、調べているのだが魔法使いの方々は苦い顔をしていた。 「いや、全ては神の計らいで…」 「んなこと言ってたらどんどんぶっ倒れていくぞ!」 「いいんだ。それが神の意思なら…」 「人を殺す神ってなんだよ!そんな話じゃなくて…だから!原因突き止めるには病人を調べるなり、遺体を調べるなりしなきゃ…」 「ならん!そんな不浄なものに手を触れるなど!」 「だーかーらー!不浄とかじゃなくて…」 「そもそも、薬草などは魔術師の専門範囲だ。我ら魔法使いが手を出すな」 「はぁ?苦しんでる人がいるのに魔法使いとか魔術師とか関係ねぇ」 「はぁ。お前はまだ分かっとらんのだ…それぞれの役目というのがあってだな。そう神はつくったのだ」 「あーもう!神様はもういいって!」 「フォスよく聞け!神域は我らが侵してはなら…」 熱を上げたように教授は声を上げ、目の前の教授の虚像も椅子を倒して席を立った。 と同時にぶつっ!と大きな音がして教授の虚像は居なくなった。フォスは通信を切ってしまったらしい。この通信はお互いの魔力で繋がっているので、一方の魔力が途切れれば切れる。繋ごうと思わなければ繋げないのだ。 「あの分からずやのおっさん!腹立つ…」 「まぁ…魔法使い一族ではフォスが異端ですからね」 「分かってるけどさ…」 フォスはバサッと机に突っ伏した。机の上には沢山の書類や本が並んでいる。沢山調べてした助言なのだが、「神の思し召しだ」のいつもの一言で済まされ、あーぁと大きく伸びをした。この調べ物のせいで数日間寝ていないのはサージュも知っていた。 「まぁ…確かに気になりますけどね。その伝染性のなにかは」 「だろ?けど魔法使いが出来ることはない」 「そうですね…魔法使いはどちらかというと攻撃の方が得意ですから」 主に、魔術師が薬草などを用いて治癒にあたり、魔法使いは攻撃魔法に特化している。攻撃魔法は魔術師はできない事なので魔法使いが攻撃魔法に特化するのは必然のようなもので、魔法使いで薬草を用いたり治癒をするものは少ない。つまりこのように病気について調べる魔法使いは少ないという事だ。ほとんどの魔法使いが、一族以外との過度な接触はさける。 村外では黒い外套姿で出歩くので、『黒外套の一族』とも呼ばれ、恐れられている。実態は普通の人間より少し長生きなだけの、ただの人間なのだが。 「はぁ…なんでこの美しいものを攻撃に使うんだか」 フォスはそう呟き、本に描かれている魔法陣を指でなぞった。 攻撃といっても護衛のための攻撃なのだが、世界の所々で戦争が今日も行われており、それの殆どに魔法使いが関わっているといっても過言ではない。魔法使いをつけない権力者などこの世界にはほぼいないに等しいのだから。 「それは同感ですけど。まぁ…落ち着いて。お茶でもどうぞ」 「あぁ…ありがとう」 フォスはサージュが手渡したハーブティーに口をつけて、また疲れたように机に突っ伏した。 「あーなんかめっちゃ眠くなってきたわ」 「はい。おやすみなさい」 「おう」 サージュは寝室から薄い毛布を持ってきて、机に突っ伏すフォスにかけた。 そして後ろから陣をかき、「ミーミ。そなたに良き夢を」と快眠へ誘う魔法を静かに添えて。

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