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第4話

フォスがすっかり寝静まった頃、サージュはフォスの机の下に潜り込み、フォスの足元から顔を見上げていた。 その左手には杖と液状の魔法がかかった薬物を持っている。 ハーブティーに入れた催眠効果がある薬草、眠りの魔法、それに日々の疲れも加わればおそらく当分起きないだろう。 「よし」 覚悟を決めて、フォスの体に手をかけた。 フォスに触れるか触れないかのその一瞬で、サージュの手首は急に何かに捕まれ、動きが取れなくなった。 「っ!?」 一瞬の事で何が起こったのか理解ができなかった。 そして、気がつくと、サージュの首元には杖の先端が押し当てられていて、息を飲み込むのも出来ないほど張り詰めた空気が流れた。 相手は誰か…など見なくても分かる。 「寝込みを襲うなんて、物騒だな」 フォスはしっかり目をあけ、サージュを見下していた。その目はいつものような明るさなど微塵もなく、明らかな敵意を向けた鋭い目だ。 その迫力にサージュは言葉が出ない。 一言でも余計な言葉を発すれば喉もとの杖から攻撃をされる。そんな迫力だった。 「お前とは、上手くやっていけると思ってたんだけど?」 左手に持っていた薬物の入った瓶を蹴り倒され、杖も遠くに蹴り飛ばされた。 杖がなくても陣はかける。しかし、魔力は半減するし、そもそも魔力でフォスに勝てるわけがない。 この状況で、サージュは完全に尽くす手が無くなったという事だ。 「何をしようとした?」 フォスに見下されながら言われたが、何も言えずにサージュは目を逸らした。 しかし、フォスはそれを許さず、足でサージュの頬を蹴りじっと目線を合わせた。 「なにが目的?」 「っ…!」 ぎりりと喉元に迫る杖。逃がさないと表しているようだ。 しかし、何も言わないサージュに二人の睨み合いは続いた。 するとフォスは杖を一旦サージュから外し、ぐるっと薬ビンに向けて陣を描いた。 サージュはその隙に逃げようかと考えたが、フォスの左手はサージュの首元をしっかり捉えていて、決して逃げられる様子ではない。 薬ビンの中はふわりと使用した薬草の形を示している。フォスは更に、実際に中の透明な液を手に取り、匂いを嗅いだり、感触を確かめたり、少し口に含んで吐き出して味をみたりした。 「…粘性はアロの葉か。あとは…丹参。血流をよくする効果か?あとべクロ。麻痺…?けど量が少ないな…」 フォスは薬ビンが示す薬草を次々と言い当て、その分量、効果まで当てていく。 しかし、成分を全て当てたフォスの顔は不思議そうな顔をしていた。 フォスの予想ではもっと強い毒薬だと思っていたのだ。しかし、この量だと確かに軽い麻痺は起こるだろうが、失神まで行かない。ゆるいビリビリと感じる程度だ。あとは少し血流が良くなって熱くなるくらいで粘性の意味はわからない。分かるのは、この薬物の目的はフォスを殺したりするものではなさそうという事だ。 触れていた指にべトリと絡みつく粘性の高い液体をフォスその感触を何度か確かめていた。 「これは…毒薬というより…」 油に近い粘性をもつそれは絡みつく様子からやらしいことを想像させた。おそらく寝不足でなければもっとクリアに頭が回ったのだろうが、寝不足の時ほど子孫を残したい本能が強くなるというが、そのお陰で一番はじめに思いついたのが、男女の営み時に挿入を手助けするあれのようだなと。はたまた自慰の際により気持ちよくするオイルのようだと。 「…自慰?」 そこで、ふと数日前の弟子との会話を思い出したのだ。 「サージュ…お前まさか…」 こちらを見るサージュの顔がボボボっと音が鳴るようなど真っ赤になった。 「お前まさか俺の精液飲もうとした?」 いつも冷静で、どこか冷めたようなサージュの顔は明らかに動揺していて、真っ赤に染まっている。これは口より雄弁に「そうだ」と言っているものだ。 弾かれたようにフォスは笑った。 「ははは!お前…まじかよ」 「…魔力が…上がるって」 「試そうとしたのか?」 寝不足の脳にこれはなかなか刺激の強い。あの色恋事から真逆にいそうなサージュが精液を飲みでみたくて色々と作戦を立てて、薬物を調整したのかと考えたら笑いが止まらなかった。 「あははは!むっつり過ぎる…」 「むっ…!違います!!僕はただ…」 頭から湯気が出るんじゃないかというほど真っ赤になって否定する様子が妙に苛めたくなってしまいサージュをぐいっと引き寄せた。机の下に潜っていたサージュはバランスを崩し、フォスの方へよろけ、その顔は図ったようにフォスの股間の所へ近づいたのだ。 「サージュくん。ちゃんと素直に言ってくれたらあげたのに」 サージュは目が面白いほど泳いでいて顔は相変わらず真っ赤のまま、フォスの太ももに置いている手までもは真っ赤に染まっている。 サージュもいい年の男性なのに、どこまで純朴に育ったのだ。 「ほら。ちゃんと言ってごらん」 わざと意地悪く微笑むとサージュは睨むようにフォスを見つめ、「もういいです!」と掴まれていた手を振りほどいた。 「ごめん。ごめん。でもいいの?もうこんなチャンスはないかもよ?」 「…っ!大丈夫です!」 「ふーんあーそう。じゃぁおやすみ」 拘束するように見下していた顔をぱっと上げて、ほら自由だと言わんばかりに両手を上げてサージュの体を解放した。 サージュは少し戸惑ったが、すぐに立ち上がり、自室の方へ向かった。 全く面白くねぇなと思いながらフォスも布団で寝ようと寝室へ向かおうとした。 「フォス!」 「ん?」 「なぜ…眠りの魔法が効かなかったのですか?ハーブティーも」 「あぁ…あのハーブティーぐらいの薬草ならもう効かない体になってる」 幼い頃からの鍛錬で、薬物への感受性が低くなっているのだ。それは囚われた時に自白剤などが効かないように。 「眠りの魔法は?」 「あれもまじないレベルだからな。あと、普段布団で寝ろってうるさいお前が妙に素直に机で寝させようとしてから警戒して、何かあったら防御できるようにしてた」 「なるほど…流石ですね」 「お前がまだまだなんだよ」 「…そうですね」 「んじゃぁ…まじで眠さ限界だわ。おやすみ」 「フォス!」 「あああぁ!?まだなんかあんのか」 眠さで不機嫌になりながらもサージュの方を向くと、サージュはぎゅっとフォスの服を握り、下を向いている。 「どした?」 「……」 「サージュくん?俺そろそろ限界…」 「…の……さい」 「はぁ?聞こえねぇんだけど?」 全く意図の読めないサージュの行動と、聞き取れないほどの小さな声でフォスの苛立ちは高まっていく。あまり気が長い方ではないのだ。 「…フォスの精液飲ませてください」

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