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 青年が全身を眺め回しているので、追うように視線を下に向けていく。  自分が着ている制服を見て、思わず息を飲む。時代が正しければだが、金ボタンが付いているこの詰襟の制服は帝国大学のものだろう。  下腹部にかけて濡れているところを見ると、どこかの川に落ちたのかもしれない。多少なり乾いてはいるが、まだスボンが重たく感じられた。  何か他に手がかりはないかと、制服のポケットに手を入れてみる。  手に少し硬い紙の感触が触れ、慌てて取り出す。水に濡れて、くしゃくしゃになった葉書が一枚入ってた。  慎重に指で引き伸ばしていくと、水に濡れて滲んだ字で『こちらは用意出来ている。いつでも来い』と短く書かれていた。  差出人は書かかれておらず、宛名も住所も水に濡れていて読みづらい。 何とか読み取れるのは「天野」という苗字だけだ。  一銭五厘の切手には八年四月三日と消印が押されていた。間違いでなければ今は大正八年のはずだ。

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