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ヒスイは炊事場に居た。既に夕飯の支度に取り掛かっているようで、無駄のない動きは普通の人間にしか見えない。
「遅くなってしまってすみません……手伝いますね」
隣に並ぶと「炊事は出来ないんじゃないのか」と冷ややかな視線を向けられてしまう。
「それでも……何もしないわけにはいきませんから」
怯むわけにはいかず、「教えてください」と天野は頭を下げる。
「確かに、ただの居候じゃ困るし」
ヒスイはため息を吐き出すと、「じゃあそれ洗って」とザルに入っているトマトを指差す。
洗うぐらいなら自分にもできると、少しホッとして腕まくりする。
ふと、手首に薄っすらと赤い筋が入っているのが目に留まった。それはまるで、紐でキツく縛られたようにも見える。
背筋に悪寒が走り、それでも目を離すこと出来ず、じっとその痕を見つめてしまう。
微かに波打って見えるのは、縄なのだろうか。両手首とも付いていて、言い知れない恐怖が湧き上がった。
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