32 / 185
32
「おい! お前達、相手は人間なんだ! 早く戻ってこい!」
ヒスイが少し声を荒げと、双子は「ちぇっ、つまんないのー」と言ってやっと開放してくれる。
目が少し回ってしまい、ふらつく足取りで縁側に戻ると「ここで待ってよ」と言ってヒスイが中に引っ込んでしまう。
「この人間の事も」
「好きなのかな」
双子の呟きに思わず「えっ?」と天野は二人に視線を向ける。
「ヒスイね」
「幸朗の事――」
「おいっ!!」
双子の声を遮るように、タオルを片手に戻ってきたヒスイが声を荒げた。
「ヒスイたら」
「こわーい」
そう言いつつも笑い声を上げ、逃げるように廊下を走り去ってしまった。
ふと、そういえば着物が全く濡れていなかったと思い至る。廊下も全く濡れた様子がなく、綺麗なままだ。
笑い声と足音が遠退いていくと、ヒスイがタオルを投げ渡してくる。
「すみません。ありがとうございます」
タオルを受け取ると、頭から拭いていく。
ヒスイは黙ったまま、自分の部屋の方へと向かっていってしまう。
双子の言葉が気になったが初めてヒスイが声を荒げた姿を見て、迂闊には聞けなくなってしまった。
苦虫を潰したようなヒスイの顔が脳裏に浮かぶ。幸朗という人物が、人間であることは間違いない。ただ、どんな人物でヒスイとの関係は不明のままだ。
ヒスイの表情から察するに、あまり聞かれたくない相手なのかもしれない。
天野は黙ったまま、ヒスイの後ろ姿を見送った。
ともだちにシェアしよう!