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「なんだよ……元気じゃん」  ヒスイが不満げに言いつつ、盥の中に入った手ぬぐいを絞ると天野の額に乗せた。 「治るまで寝てて良いから」  盥を抱えたヒスイが立ち上がる。 「ありがとう、ございます……」  一抹の寂しさを抱えつつも、布団の中から囁く。  ヒスイがちらりとこちらに視線を向けると、部屋から出ていった。  包丁の件もそうだったがヒスイの行動には時々、心をかき乱されてしまう。  行動自体は間違いではなくとも、一種の甘ったるい感情までもが湧き上がってくる。  ヒスイにその気がなくとも、天野の方はどんどんと気持ちが膨れ上がっていることは間違いなかった。  相手は妖怪で、人間では無いことは分かっている。それに、記憶を取り戻せばここに居られなってしまうかもしれない。そう考えると胸が締め付けられてしまう。 ――此処を離れたくない  自分の思考にハッとして、慌てて振り払う。熱にうかされてそんな事を考えてしまうのか、それとも……  天野はそれ以上考えないようにと、睡魔に誘われるようにゆっくりと瞼を閉じた。

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