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 筆者の名は佐々倉 幸朗で、歳は二十五歳だった。   幸朗の記憶が正しければ、明治四十五年であるとされている。日付は不明。ヒスイが日付は不要な物だと言って、教えてくれなかったようだ。  天野にした返答と同じで、妖怪には人間の暦などどうでも良いのかもしれない。  結核で亡くなる前に、書き留めておきたくて筆を取ったようだった。便箋の所々に、黒く変色した血の痕跡が残っている。  幸朗の住んでいた島では漁業が盛んだった。  潮風の香りを嗅ぎながら、漁師の父親と快活な母親の間に生まれたのにも関わらず、幸朗は体が弱かったようだ。  それでも、五人兄弟の二番目として賑やかで慎ましい生活を送っていた。  そんなある時。当時の島では、突如として記憶を無くす者が続出していた。  原因がわからず途方にくれた島民は、禁忌の森に住む妖怪の仕業だと思い込み始める。この森の伝承は受け継がれていて、妖怪がいる事や結界が張られている事も信じられてきた事が大きな要因のようだ。

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