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ここからはヒスイから聞いた通りで、急斜面を落ちそうになったところを助けられたようだった。
すぐに記憶を奪う様子もなく、傷の手当てを仏頂面でされた事にはかなり動揺してしまう。
聞いた話とは違う様子に、この妖怪は村の事件とは無関係なのではないかと、幸朗の中で疑問が芽生え始める。
真相を確かめる為に、自らこの場所に留まると言い張ってヒスイを動揺させもした。その時の様子がまさに人間と何ら変わらず、当初の恐怖心はいつの間にか消え去ってしまう。
当時のヒスイは名前がなく、一緒に暮らすなら不便だという理由から幸朗が名付けた。翡翠が かった瞳の色が綺麗でそう呼んだところ、不服そうではあったものの拒否はしなかった。
ヒスイは無愛想な所があるが、決して冷淡な者ではない。喀血や熱が上がる度に、傍にいて看病してくれる。
ヒスイの手が冷たくて気持ちいいと言えば、いつまでも額に手を当てていてくれた。そんな者が人間を襲うはずがないのは明白だった。
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