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ヒスイ曰く、人間の記憶を奪うには涙を流させる必要がある。その時の感情で流した涙によって、得られる物が変わってきてしまうとの事だった。
だからこそ、そう簡単に得られるわけではない。それに、恐怖で流した涙を口にすればヒスイ自身の記憶を失う可能性があるとの事だ。
結果的に一連の事件はヒスイには無関係で、実際は島民が食べていた貝に問題があるようだった。
各地を旅している双子の座敷わらしである、ミヨとミコがこっそり教えてくれた。
その事を伝えようにも、この病に侵された体では到底村に帰ることも出来ない。かと言って、このままでは新たな犠牲者が出るかもしれない。
もしも、この手紙を読んだ者が無事に森の外に出る事が出来たなら、島の者にこの手紙を渡して欲しいと、読者に向けての願いが認《したた》められていた。
そして最後に書かれていた言葉は、まるでヒスイに向けられているようでもあった。
『ヒスイと逢い、僕は生きる意味を見つける事ができたのだ。それは役立たずな僕の幸福の極みであり、その記憶だけは天に持ち帰らせてもらう。残りの幸せな記憶はヒスイに全て預けた。誤解しないで欲しい。奪われたり、あげたりしたのではない。預けたのだ。自分はこの世には居なくなってしまうが、ヒスイの中で自分は生き続ける事ができるだろう。その事に、とても感謝している』
手紙はそのように、締めくくられていた。
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