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屋敷に戻ると「どこ行ってたんだよ」とヒスイに小言を言われ、いつもなら素直に謝るところだが、視線を逸したまま俯くことしか出来なかった。
ヒスイもそれ以上は何も言ってこず、どこかへ行ってしまう。
「お兄ちゃん?」
「どうしたの?」
二人の手をぎゅっと握ると「なんでもないよ」と言って、二人の部屋に連れて行く。
布団をかけて電気を消すと「おやすみ」と告げて、天野は部屋を出た。
すぐに寝れそうにもなかったので、縁側へと向かう。
梅雨の時期とあってか、月が黒い雲の間を見え隠れしていた。
「寝れないのか?」
少々投げやりな口調に、振り返らなくてもヒスイだと分かる。
「……ちょっと寝すぎたみたいで」
「何? 郷愁に駆られたってやつ?」
「えっ?」
驚いて振り返ると、そこにヒスイはいなかった。
話の途中で居なくなるなんて、まるで猫みたいに気まぐれだ。寂しいようで、可笑しいような。それでも胸が苦しくなった。
幸朗だったらこんな時、なんて言ってヒスイを引き留めたのだろうか。
それどころか引き留めなくとも、幸朗だったらヒスイは傍にいたのかもしれない。
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