51 / 185
51
複雑な気持ちで俯いていると、隣に気配を感じて慌てて視線を向ける。
微かに雲間から顔を出した月明かりが、目鼻立ちの整ったヒスイの顔を照らし出していた。
盆が天野との間に置かれ、コトッと小さな音が立つ。そこには、お猪口と徳利が二つずつ置かれていた。
「あいつらからの土産」
ヒスイが徳利から、水銀色に輝く液体を注いでいく。
「酒ぐらい飲めるでしょ」
「……はい」
お猪口を受け取り、ヒスイに習って口を付けていく。
日本酒の爽やかな甘味が口の中に広がり、飲み下すとカッと喉が熱くなる。
「その酒、噛み酒って呼ばれてるんだ」
「えっ?」
「女が口で米を噛んで、それを酒にしたやつ」
動揺のあまり、お猪口とヒスイの顔を交互に見比べる。
そんな原始的な作り方を今でもしている事に対しての驚きと、そしてなんとも言いがたい羞恥が芽生えた。
「嘘だよ」
ヒスイの翡翠色がかった瞳がスッと細められ、口角が緩く上がっている。
嘘だと分かっても上がった熱が冷めることはなく、頬が熱いままだ。
ともだちにシェアしよう!