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「それに……お前は記憶を失っていて、今はまだお前の世界には俺しかいないだけだ。記憶を取り戻せば、大切に思っている奴がいるかもしれないじゃないか」  ヒスイの手が天野の手から、すり抜けるように離れていく。硬い木にすり替わった感触に、胸にキリッとした痛みが走った。 「……そんな事……わからないじゃないですか……」  弱々しく言葉を吐き出し、自然と涙が目の縁に溜まっていく。  人間が自分しかいない世界に、不安や孤独を感じていたのは確かだった。縋るべき相手がヒスイしかいない事で自然と情が沸いてしまうのも否定できない。  それでも、ヒスイにまで見放されたような悲しみが一気に込み上げてきてしまう。 「お前は……狡いな」  ヒスイの一言にとどめを刺さ、刃物を突き立てられたように胸が凍てついた。唇を噛み締めても、涙が止めどなく溢れ出していく。  こんな時に限って、月明かりが眩しいぐらいに顔を出して無様な姿が晒しだされてしまう。

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