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「えっ……」  ふわっと甘い香りが鼻先を掠める。ヒスイの顔が近づき、冷たい舌先が天野の頬に触れていく。 「――……っ」  思わず身を竦め、目を瞑る。涙の伝った跡をなぞるように、ヒスイの舌がゆっくりと降りていく。  天野はそこでハッとして、自らヒスイの唇を奪った。唇の隙間からヒスイの舌を捉えるように、自らの舌を絡ませて吸い付く。少し塩辛い味に、焦りばかりが募ってしまう。 「っ……お、いっ……」  ヒスイが慌てたように手首を離すと、胸を軽く押され互いの唇が離れてしまう。 「だ、大丈夫ですか?」 「大丈夫もなんも、お前からしてきた事だろっ」  ヒスイが眉を顰めて、抗議の声を上げた。 「そうじゃなくて……」  そこで言葉に詰まってしまう。手紙に書かれていた通りだとしたら、今の涙は悲しみの感情のはずで、何かしらヒスイに影響が及んでしまう可能性があった。  異常がないのか聞こうにも、ヒスイの口からその話は聞いていない。にも関わらず、聞いてしまうのは不審がられるだけだ。手紙の事を話すのは気が引けるし、かと言って何も言わないのも不審に思われてしまう。

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