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ヒスイに腕を引かれて連れてこられたのは、天野の部屋だった。
ここに来る途中でヒスイの部屋の前で待たされ、出てきたヒスイは手に二本の小瓶を持っていた。
黙ったままで浮かない顔のヒスイに連れ添い、来たのが天野の部屋だった事に驚く。
電気が付いていない部屋は、小窓から差し込む月明かりだけで心許ない。
ぼんやりとした室内に入り、ヒスイは無言のまま布団を敷き始めた。
「えっ、ここで寝るんですか? 窮屈じゃないですか?」
布団が一枚しかないのにどうやって寝るのかと訝しく思っていると、返事がわりに呆れたような溜息が聞こえた。
「あのさー、仮にもお前は男だよな? どんだけ初心なんだか」
ヒスイの言葉にやっと意図を汲み取り、全身の体温が一気に上がってしまう。
「嫌ならやめるし、無理にとは言わない。お前がどうしてもって言うから……この方法しか思いつかなかった」
ヒスイも緊張しているのか、心なしか声が低く掠れている。
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