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たとえ記憶が戻らなかったとしても、この幸せな記憶さえあれば何もいらなかった。
ヒスイは少し驚いたように目を見開き、すぐに困ったように口元を緩めた。
「ほんとさ……癖になったら困るんだけど」
ヒスイが小さく呟き上体を起こす。回していた腕が離れた寂しさに、ちょっとしたやるせなさを感じた。
そんな天野の気持ちを知るはずもなく、ヒスイは天野の膝を掴むと、さっきよりも激しい抽送が繰り返されていく。
「あっ! はぁっ……んっ、ん」
視界が激しく揺さぶられ、意識が飛びそうになるほどの快感に目眩が襲い来る。
部屋に響く激しい水音と荒い息遣いが、嫌でも耳につく。酷く淫らな情景が扇情的で、欲望が掻き立てられてしまう。
何度めか分からない絶頂に天野は飲み込まれ、思わずギュッと後孔を締め付けた。
「……っ」
息を詰めたヒスイが腰を奥に打ち付けると、ドクドクと脈打った気配に果てたのだと分かる。
「あっ――」
途端に、視界が暗く閉ざされていく。抗えない闇に飲み込まれるように、天野は静かに意識を手放した。
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