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「お願いします!! 何でもしますから!! どうか、どうか、婚姻はまだ待っていただけないでしょうか」
真紅の絨毯が目の前に迫り、額を擦り付けるように深く頭を下げていた。全身から汗が吹き出し、膝は微かに震えている。
やや視線を上に向ければ、黒光りした革靴の先が視界の隅に映り込む。
「何故だ? 俺では不都合だとでも言うのか」
「――はまだ、十七になったばかりなのです。もう少しだけ待って頂けないでしょうか」
懇願するような表情で顔を上げ、背広姿の男を見上げる。
歳は二十代後半ぐらいだろう。品の良い立ち姿に端正な顔立ちは、周囲に飾られた絢爛《けんらん》な装飾品に見劣りしていない。
男の刺すような鋭い眼光と緩く上げた口角には、あからさまな侮蔑の感情が含まれていた。
「十七ならもう立派な女性ではないか。それとも貴様は、妹を卒業面とでも周りに呼ばせたいのか」
嘲笑うような声音で、男は近くにあった椅子に腰をかけ足を組んだ。
「違います。ただ……」
先を続けようにも、言葉が思うように出てこない。唇が震え、血の気の引いた顔を僅かに俯かせる。
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