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 此処(ここ)に来た当初から、役に立たない穀潰しにだけにはならないと心に誓っていた。だからこそ、浪費ばかりが積み重なって行く前に立ち消えるべきなのだ。  脱いだものを綺麗に畳むと、書き上げたばかりの紙の隣に並べる。  部屋を出ると足音を忍ばせ、静まり返っている廊下を慎重な足取りで進んでいく。  緊張感と湿り気を帯びた暑さのせいか、額に汗が伝っていた。  周囲の物音に気を配りつつ、何とか見つかることなく玄関へとたどり着く。玄関の扉をギリギリの所まで開けて、体を滑り込ませるように外に出た。  扉を閉めようとする際にカラカラと音がして、心臓が張り裂けそうなほど動悸が激しく打つ。  何とか扉を締め切り、大きく深呼吸をする。広大な日本家屋に向かって一礼すると、後ろ髪惹かれる思いを断ち切るように走り出す。  周囲は木々に囲まれ、右も左も鬱蒼と生い茂る木ばかりで飲み込まれてしまいそうな威圧感に天野は一瞬躊躇しそうになる。  とにかく出来る限り遠い所に向かおうと、天野は足は止めることなく動かし続けた。

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