79 / 185

79

 屋敷の周辺しか出たことがなく、天野にとって森の奥は未知の領域だ。  いくら歩みを進めても景色は変わることなく、四方八方を乱立した木々が枝を伸ばしている。同じ場所をぐるぐる回っている感覚に、次第に焦りばかりが募っていく。  気づけば木々の隙間から射し込む日差しは、朝よりも色濃いものになっていた。  屋敷では今頃、なかなか起きてこない天野に痺れを切らして部屋を覗きに行っている頃だろう。  置き手紙には今までの感謝と、懺悔の気持ちを認《したた》めてある。  自力で村に戻ることが出来たのならば、ヒスイの無罪を必ず伝えることを恩返しとさせて欲しいとも付け加えた。  食料もなければ、飲み水もない。こんな無謀な状態では、村にたどり着く前に野垂れ死んでしまうかもしれない。  それに加えて、近頃の不健康振りが拍車をかけていた。歩き続けたせいか足が痛みだし、目眩も襲いかかってくる。  無謀な事だともちろん分かっていた。ヒスイは今頃、呆れ返っている事だろう。

ともだちにシェアしよう!