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 いつ婚姻が行われるか分からない不安のせいか、泰子は日増しに痩せ細っていた。真面目に通っていた女学校にも顔を出さず、部屋に引き篭もる日が続いている。  父の帰りを待っている時間はないようだった。抜け殻のようになっていく泰子の痛々しい姿を見ていられず、天野は苦渋の決断を下す。  泰子には気を落とさないようにと伝え、女中には泰子の様子を気にかけるようにと指示を出した。  何処に行くかは敢えて伏せておく。万が一、父に漏れてしまってはこの計画は白紙に戻ってしまうどころか、今すぐにでも婚姻を執り行おうとするだろう。  天野は急いで懇意の仲である親友の里中《さとなか》 恭治《きょうじ》に電報を打つと、汽車に乗り込む。  都内から三時間ほど汽車を乗り継ぎ、本州から船で渡っていく。長旅を終え降り立った地は、本州から離れた場所に位置し、漁業が盛んな島だ。  この島は母が療養する以前から、父が船を収めていたこともあり何度か家族で訪れていた。  天野が幼い頃。家族旅行という名の、仕事の下見で父に連れられてきたのだ。あの頃の方が、まだ父は自分たちに目を向けていたような気がする。今では一人娘を悪魔のような男に渡して、政略結婚させようとするほどに、人として落ちてしまったが――

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