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 電報が先に届いていたようで、降り立った港には恭治がそわそわした様子で出迎えてくれる。   父の跡を継ぐために、漁師をしていた恭治は天野の華奢な体付きとは対照的でがっしりとしていて(たくま)しい。  キリッとした眉に快活そうな目元、男らしい顔つきで力強さに満ち溢れていた。 「久しぶりだな。なかなか葉書を寄越さないから、てっきり嫌われてしまったかと思ったよ」 少し戸惑うようにはにかんだ恭治が、天野の肩を叩く。 「すまない。こっちもいろいろ忙しくて……それより急に来てしまった事を詫びるよ」  天野は静かに頭を下げると、慌てた様子の恭治が「やめろよ」と言って顔を顰めた。 「同じ釜の飯を食った仲じゃないか。そんな気遣いは俺たちの間には不要だ」  恭治の笑顔に心に熱いものが込み上げ、思わず言葉に詰まってしまう。 「相変わらず、女々しい奴だな。お前はいつもそうやって、泣きそうな顔をしている」  恭治が少し困ったように、眉根を寄せた。そんなに自分は女々しく見えるのだろうか。天野は少しだけ気落ちしてしまう。

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