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「そんな顔するな。それより、遠路遥々(えんろはるばる)こんな(へきち)に来たのだから、何かしら訳があるんだろ? 立ち話も何だから、俺の家に来ると良い」  恭治の言う通りだった。一刻の猶予も許されない状態で、呑気に哀愁(あいしゅう)に浸っている場合ではなかったのだ。  それに九月に入ったとはいえ遮られること無い日差しが降り注ぎ、ワイシャツの袖から伸びた腕と顔に容赦なく照りつけてくる。暑さから全身にじっとりとした汗を掻き、額から流れ落ちていた。  恭治の言葉に甘える事にして、天野は数年振りに恭治の家へと足を向ける。  懐かしのこの地は昔となんら代わり映えしておらず、あらゆる場所に家々が建ち並び、商店や神社も時の流れが止まってしまったかのようにそこに鎮座していた。 「懐かしいだろ。昔、この辺りを俺がよく案内したよな」  辺りを懐かしげに視線を向けているせいで歩みが遅れていた天野に、先を歩く恭治が振り返る。 「確か僕が十二歳だったかな……海で泰子と遊んでいた時に、恭治が声をかけてきたのだっけ」

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