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 資産を投げ捨て、何処か誰にも見つからないような土地で二人で慎ましく生活を送ろうとも考えていた。でもそうなってしまうと、泰子の女としての幸せを奪い去ってしまうような気がしてならない。そこで恭治にまず話を付けてからにしようと、この計画は保留にしていた。 「恭治の気持ちはどうなんだ? 恭治の家族には、もちろん僕から頭を下げるつもりでいる」  家にある自分の家財や貯金も全てなげうち、この家に結納金も収める気でいた。  それでどうにかなるとは思っていないが、そうすることが今の天野の出来る最大限の事だった。  天野は自分の考えを述べ終えると、伺うような視線を恭治に向ける。恭治は渋い顔で俯き、考えあぐねているようだった。  沈黙が部屋を支配し、居心地の悪さに天野は居たたまれない気持ちで膝に乗せている拳を見つめる。 「わかった」  囁くような声が聞こえ、天野は下げていた頭を勢いよくあげる。 「お前の願いは叶えてやる。その代り――」  恭治の目の色が変わり、天野は思わず背筋に悪寒が走った。初めて見た親友の獣のような視線に身が竦む。 「夕食が終わったら俺と一緒に来てくれ」  険しい表情と、緊張感を孕んだ声音で恭治が告げる。 「……わかった」  恭治の事だからそこまで危惧することはないだろうと、天野は小さく頷いた。

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