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恭治との約束通り夕食を終えると、ガス街灯の仄かな明かりを頼りに天野は恭治の後ろを歩く。
家族がみな揃い、各自楽しそうに今日の出来事を話し笑い合う姿に、天野は胸が鷲掴みにされたような気持ちで箸を進めていた。
ずっと憧れていた光景を久方振りに見て、自分にもこんな家族が欲しかったのだと喉が締め付けられなかなか飲み込めない。
浮かない顔の天野に対しても、恭治の家族は気を配って明るく話しかけてくれていた。そんな温かい家族に迷惑をかけるのはどうなのかと、心が揺らぎそうになってしまう。
月明かりに照らされた道を歩く恭治は、昼の時とは違って終始無言のまま足を進めていた。
コンクリートの坂道を下っていくと、潮の香りが鼻先を掠め波の音が聞こえてくる。次第に夜の闇に飲み込まれている海が姿を現し、何故海なのだろうかと疑問が湧き上がった。
防波堤に近づくと、恭治の歩みが途端に遅くなり天野の隣に並んだ。
「足元気をつけろ」
そう言って、恭治が天野の腕を掴む。
「お前ってドジだからな」
そう付けたして微かに笑い声を立てる恭治の姿に、いつもの恭治だと少しだけ天野の心は軽くなった。
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