101 / 185
101
「此処で一緒に暮らせばいいじゃないか」
恭治が納得がいかないといった顔で、天野の手を握った。恭治の手は熱く、力強かった。
恭治にそう言われることも分かっていたが、これ以上は迷惑をかけるのはどうしても嫌だった。それでなくて成金の家のお嬢さんがこの島に住むとなれば、それなりに奇異の目を向けられるだろう。自分まで一緒となれば、事を複雑にする一方だ。
「……ありがとう。でもこれ以上は迷惑かけたくないんだ……」
恭治の顔を見ることが出来ず、天野はぼんやりと白く輝く砂浜に視線を落とす。
「……蓮介」
名前を呼ばれたことに驚いて天野が顔を上げると、恭治が間近に迫っていた。
「えっ……?」
恭治が天野の肩に手を置くと顔を近づけ、呆然としている天野の唇と重ねる。柔らかい唇の感触と、微かに震えている恭治の手に動揺のあまり立ち尽くす。
唇が離されても言葉を発することが出来ず、天野は恭治をぼんやりと見つめる。どうしてそんな事をしたのか、理解が追いつかないでいた。
「そんな顔するなよ」
困ったように口元を緩める恭治に、一気に羞恥心が湧き上がり頬がカッと熱を持つ。
「俺は約束を守る男だ。でもな――」
恭治が天野の腕を掴み、歩きだした。今度は何処に連れて行くつもりなのかと困惑していると、苦しげな恭治の声が波音と共に聞こえた。
「好きな奴が此処から居なくなるって分かった今、俺は自分を押さえられそうにない」
ともだちにシェアしよう!