102 / 185

102

 恭治に引きづられるように連れて行かれたのは、漁師たちが休憩している小さな小屋だった。  卓袱台と座布団に、畳まれている布団が置かれているだけだ。窓から差し込むかすかな光だけが、部屋の中を照らし出していた。  天野を先に入れると、恭治が後ろ手に扉を閉める。余計に部屋が暗くなり、電気を付けようにも恭治に背後から抱きすくめられ、身動きが取れなくなってしまう。 「……恭治? どうしたんだ? 君らしくない」  緊張で心臓の鼓動が激しく打つ。さっきの言動といい、恭治が別人にでもなってしまったのではと思えてならない。 「俺は……お前を好いている」  恭治が天野の耳元で囁くように告げた。その告白に一気に熱に浮かされたように、全身が熱くなる。 「好いてるって……君は何を言って――」  言ってる間に天野の体が反転し、恭治と向い合せになった。  恭治に真剣な眼差しを向けられ、思わず言葉を失う。出会った頃からやたらと世話を焼いてくれていたが、まさか自分に好意があったとは思ってもみなかった。 「お前は俺が嫌いか?」  恭治の見たことのない憂いに満ちた表情に、天野は静かに首を横に振る。

ともだちにシェアしよう!