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 翌日の早朝。屋敷中に響き渡るほどの激しい雨音に、天野は驚いて目を覚ます。  突如として発生した台風によって船は欠航、漁も中止となってしまった。天野にとってはケリを付ける願ってもみない機会だったが、漁師としては明日の食い扶持に影響が出る死活問題だ。  朝食の席では恭治の父親である勇夫が「妖怪の祟のせいだ」と太い眉を寄せ苦い顔をしていた。 「そんな迷信まだ信じているなんて、おかしな人ね」  朗らかに笑う多恵のお蔭で、湿気っていた場の雰囲気が和やかなものへと変わる。  天野は緊張と不安を悟られまいと、愛想笑いを浮かべた。 「蓮介くんもそう思うわよね?」 「僕はそういう事に疎いので……いたら面白いとは思いますが」  天野は当たり障りのない言葉で返す。 「いるからこそ、裏の集落では密かに生贄を出しているんじゃないか」  ムキになったのか勇夫が抗議の声を上げた。  この集落の真反対には、森を挟んで一つの集落がある。  反対側の集落では尼が貝を取っては、それを収入源にしているようだった。こっちの集落のような港はないらしく、漁船もない。そのため本州への出荷の際は、向こう側の分まで回収してから向かう事になる。  そのせいか、交流の少ない集落同士でも漁師は定期的に顔を合わせている。漁師をやっている勇夫が、向こうの噂が耳に入らないとは言い切れなかった。

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