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「やめてくださいよ。食事中にそんな恐ろしい話」
諌めるような口調で、多恵が顔を顰めている。
「蓮介くんは行くことはないと思うが、あの森には絶対に立ち入らないようにな。あそこ入ったら二度と出られないと言われている」
「出られないんですか?」
変に思われなように、天野は努めて普通に問いかける。
「そうだ。あの場所は昔からそう言われてきていて、この島全員があの場所には近づかない。その昔、陰陽師が――」
「あなたっ!!」
多恵が射すくめるような目で、勇夫を睨みつけた。肩を竦め、困ったような顔で笑う勇夫は恭治と似ていて、やっぱり親子なんだなと思わされてしまう。
自分は父親に似ている所があるのか分からなかった。どちらかといえば、周囲からは母親に似ていると言われていたこともある。天野は線の細い体つきや中性的な顔つきは、威圧的でどこか冷たい印象の父親とは正反対だった。
男らしさには欠けてしまうが、天野としてもその方が都合が良い。あんな家族を放ったらかしにするような父親と、似ているだなんて思われるほうが嫌だった。だからこそ自分は残された妹を自らを犠牲にしてでも、守りたいと思ってしまう。
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