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朝食を終えると、恭治の部屋へと二人で引き上げる。恭治もどこか落ち着かない様子で部屋に入り、腰を据えた後もしばしの沈黙が流れた。
「……昨日の話だけど」
いつまでもこうしてはいられず、天野から沈黙を破った。天野の問いかけに、恭治の瞳が微かに揺れている。昨日の告白を聞いた今、切り出すことが酷なことは分かっている。それでも泰子の為を思えばこそ、天野の中に湧いた微かな恋心さえも抑え込むには十分すぎた。
「恭治は泰子を嫁にもらってくれるか?」
「……ああ、構わない」
淡い期待を抱いていたのだろうか、恭治は苦痛に顔を歪め視線を俯ける。
「泰子の事をどうか……幸せにしてやって欲しい」
天野が頭を下げ、心からの願いを口にする。
「分かってる。約束だったからな。お前も約束を守ってくれて、あんなことまで――」
険しい顔で自嘲気味に笑みを零す恭治は、まるで天野が仕方なく身を差し出したとでも思っているのだろう。違うと否定することも出来たが、敢えてそうせず天野は口を噤む。
ここで、同情をしてしまったら、恭治は何が何でも此処に繋ぎ止めようとするだろう。
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