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「――こういう訳なので、泰子をどうか貰ってやってはくれませんでしょうか」
天野は畳に付くほどに頭を下げ、恭治の両親に懇願する。理由は嘘偽り無く、正直に話した。
天野の父親から隠すためにも、恭治の両親には予め知っておいたうえで承諾を得たかった事が大きい。
「俺からもお願いします。母さんたちも彼女の事はよく知っているだろう。俺は……彼女を救いたいと思っている」
居住まいを正し、隣で一緒に頭を下げる恭治に天野は胸が詰まる思いがした。
「恭治は……泰子ちゃんが好きなのか?」
勇夫の問いかけに、天野は唾を呑みこむ。心臓が割れそうなほど、激しく打っている。
「はい。好きです」
断定するように言い切った恭治に、天野は密かに奥歯を噛みしめる。
「そうか……お前はどう思う?」
豪快な勇夫もさすがにこの時ばかりは、静かな声で問いかけている。
「私は別に構いやしませんけど、泰子ちゃんは器量もいいですし……ただねぇ――」
多恵の少し躊躇うような口調に、天野は不安げに顔を上げる。
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